深瀬の桧笠作りに欠かせない道具「カサブタ」。桧材を笠の形に編むための型である。
予めてっぺんの部分だけを編んだものをカサブタに取り付け、竹の棒を使って桧材をうすくした「ヒンナ」を隙間なく詰めながら編み進める。カサブタは制作する笠の種類ごとに必要となる。製品によって円周の大きさはもちろん、傾斜も異なるからだ。
深瀬桧笠の長年の主力商品「白山笠」は畑仕事の際に首筋までしっかりカバーするサイズだ。ところが近年はより小さい「新型笠」の需要が高まっている。狭所作業に適したサイズとされるが、ウオーキングや釣りといったレジャー向けに買い求められている。これまであまり作られてこなかった新型笠のためのカサブタは数が少ない。深瀬桧細工工房の発足以来、深瀬地区出身者に対して不要となった笠作りの道具の提供を呼び掛けてきたが、新型笠のカサブタは見つからない。
そんな中、白山市内で伝統産業に携わる7つの企業、団体によって伝統産業振興協会が結成された。結成記念「白山市の伝統工芸展」が開催された際、伝統産業振興協会の理事長、浅野太鼓文化研究所の浅野昭利さんに相談にのってもらい、後日太鼓の里体験学習館を訪ねることとなった。浅野さんによると古いカサブタの材質は杉だそうだ。欅で作ると割れるだろうという。浅野さんの木材オタクっぷりは館内随所にみられる。応接室入口を飾る作品の額装は屋久杉だという。桧はというと、太鼓の撥に使うそうだ。
浅野さんは「木で作る丸いものなら何でもできる」という。浅野太鼓では御所車の製造も請負っている。これまでには能登のでか山も製作したそうだ。カサブタを作れるほどの大型の乾燥材は流通していないため、材を合わせて作る。浅野さんがカサブタ用に選んだ材は樟。太鼓と同様重厚に美しく仕上げてもらう。裏側は指をかけて持ち運べるように成形、片手でも持ち運びができる。記念に浅野太鼓製作と入れてもらった。
今回、思わぬところで日本を代表する伝統産業の助けを得ることができた。浅野太鼓の知識と技術の蓄積と太鼓文化の発信力は驚嘆ものだった。桧笠生産は産業として成立しなくなって久しいが、今回製作していただいたカサブタで、笠の一枚一枚にヒンナの一本一本に、伝統の重みを編みこんでいきたい。